【りおん】
「来栖川さん、リクエストとかある?」

【創】
「いえ……すぐにぱっと出てくるほどの造詣がないもので、すみません」

【りおん】
「ということは――来栖川さんは、ピアノ、弾けないの?」

【創】
「はい」

【りおん】
「ふぅん、めずらしいわね。そういえば聴き専だって言ってたかしら」

【創】
「はい……それも、そう熱心なほうではありません」

【創】
「音楽は嫌いではなく、むしろ好きだと思うのですが、自分から積極的に求めるかと言われると……」

【りおん】
「そこにあれば耳に入れるくらい、ということね」

【創】
「ええ。真剣に音楽をやっている方の前で口にするのは、少々心苦しいのですが……」

【りおん】
「いいのよ、音楽なんてほとんどの人にとってはそんなものだと思う」

【りおん】
「わたしにとっては人生を賭けるに値するもの。でも、みんながみんなそうである必要はない」

【りおん】
「嫌悪されたら、さすがにちょっと悲しいけれど」

【りおん】
「芸術は、そんなに、人に強いるものではない――」

【創】
「たしか、太宰治の言葉でしたか」