【創】
「だって――そうでしょう?」

肩に置いた手をすべらせるようにして手首をつかみ、俺は近江紫の身体を引き寄せた。

【創】
「あなたが本心から言っているのであれば、わざわざ記録を残そうなんて考えないと思いますから」

【紫】
「…………っ!」

ぴくっ、と近江紫が身体をふるわせる。
そう……あらためて近江紫を見ていて、小さな違和感を覚えたのだ。
ブラウスの袖をやや引っぱったような感じにしていることに。

【創】
「……これ、そういうつもりですよね」

手首を握ったまま、袖をずらしてめくると、内側に隠されていた小さなマイクがあらわれた。
袖の中をケーブルが伝っていて……おそらく、スカートのポケットに録音するための本体があるのだろう。

【紫】
「…………」

【創】
「私がほいほいと誘いに応じてしまうような、邪な人間か見定めたかった、というところでしょうか」

【創】
「もしそうだとしたら、一ツ橋さんに近づけるわけにはいかない……おそらく、そんな風に考えたのでしょう?」